本文へ
ここから本文です
2025年3月 東北大学学位記授与式告辞(2025.3.25)

本日ここに、東北大学から晴れて学士の学位を授与された2,362名の皆さん、修士?専門職?博士の学位を授与された2,280名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、この間、皆さんが晴れてこの日を迎えることを心待ちにし、さまざまな形で支えてこられたご家族、そして関係者の皆さまにも、心よりお慶びを申し上げます。

皆さんは、東北大学においてコロナパンデミックにより活動が制限された時期もありましたが、勉学や研究に励み、学位の取得という目標を達成して本日晴れの日を迎えました。東北大学を代表して深く敬意を表するとともに、その努力を心から称えたいと思います。

国際卓越研究大学としての選定

ご承知の通り、東北大学は、昨年11月に「国際卓越研究大学」に選定されました。「国際卓越研究大学」とは、日本を先導する世界最高水準の研究大学を支援強化するための、全く新しい国のプログラムであり、世界の有力大学に伍する卓越した研究大学の実現を目的としています。この採択により東北大学は、最長25年間にわたり、国からの支援を得て国際卓越研究大学へと飛躍します。現在その歴史的な転換点にあります。本学は、唯一、第一号の国際卓越研究大学に選定されました。私たち構成員が一丸となって研究等の体制強化計画を打ち出し、社会の負託に応えて、日本を牽引していく確固たる決意を示したことが評価されたと考えます。また計画と共に評価されたのが、その歴史に培われた東北大学の実績です。

変革を価値とする東北大学の歴史

東北大学は、1907年に日本で三番目の国立大学として創設され、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念のもと、世界をリードする研究成果をあげるとともに、有為な人材を世界に送り出してきました。1913年、当時の文部省の見解をはじめとした、社会のさまざまな圧力に屈することなく、日本で初めて女性の大学への入学を許可し、更には女性の大学院生を誕生させました。海外からの留学生に対して日本で初めて博士号を授与したのも本学であり、変革を恐れず多彩な人材を輩出してきました。そして社会との共創の中で、多くの社会価値を生み出してきました。例えば、21世紀はデータの世紀と言われますが、本学の岩崎俊一名誉教授の発明である垂直磁気記録方式のハードディスクドライブや、舛岡富士雄名誉教授の発明したフラッシュメモリは、AIとデータ社会を支える基盤となっています。

もう一つ本学が挑戦を厭わないエピソードとして、アインシュタインの招聘計画を紹介します。東北大学はノーベル賞受賞以前から、アインシュタインが気鋭の研究者であることを知り、初代総長の年俸の約二倍となる金額での招聘を提案しました。残念ながら招聘は叶いませんでしたが、ノーベル物理学賞を受賞した翌年、東北大学を訪問したアインシュタインは、「ほんとうに学問にはいい處だ、私は仙台に来ることに特別の興味を持つてゐた」と記者に語り、当時から国際的に水準の高かった理論物理学や金属材料の研究を熱心に視察し、意見交換を行ったといいます。

このように東北大学の歴史は、変革を価値として未来に挑戦する歴史でもあり、この度の国際卓越研究大学選定は、このアイデンティティが社会に認められたと言っても過言ではありません。

変動の時代を生きる皆さんへ

皆さんは、これから「大きな変動の時代」を生きることになります。世界的に戦争や紛争が絶えず、地政学的対立は予断を許さない状況にあります。また気候変動による今までにない自然災害は、世界中で大きな被害をもたらしています。これら予測が困難な課題に立ち向かっていかなければなりません。地政学的対立に対して、本学では佐藤源之(もとゆき)名誉教授が開発した地雷探知機が、現在カンボジアなど紛争地の人道支援に役立っています。また古くは、1960年代に本学の小田滋名誉教授が、世界に先駆けて法的概念としての「大陸棚」を提唱し、今日の大陸棚制度の基礎となって世界中で用いられています。

更に気候変動や災害に関して、東日本大震災を契機に設立された災害科学国際研究所が、2015年に国連防災世界会議での「仙台防災枠組」の提案に貢献し、国連加盟国187ヶ国でこれが採択され、2030年までの国際防災枠組みとして、災害に強い社会の構築を目指す国際社会の重要な指針となっています。

一方、今後直面することが確実な課題として、人口減少社会と人工知能AIの進化があります。人類がこれまで経験したことがない程の急激な人口減少社会の到来により、人口増加を前提としたこれまでの社会システムから、新たな豊かさのモデル構築へと、パラダイムシフトを迫られることになります。またAIの進化は、私たちの生活、働き方、社会構造を根本から変える可能性があります。しかしテクノロジーが高度化するほど、人間固有の価値、即ち「計算できないもの」「数値化できないもの」「アルゴリズム化できないもの」の価値は際立っていきます。人間の経験の豊かさ、意識の神秘、意味を見出す能力、そして何より変革を恐れず、挑戦する心は、少なくとも現時点でテクノロジーでは模倣できず、AI時代において大切にすべき価値と言えます。

東北大学で学んだ矜持を胸に

皆さんは未来に向けて、変革を恐れないばかりではなく、自らが変革の基点となって時代を切り拓いていく意思を持つことが大切だと思います。変革と共に歴史を築き、今また新たな挑戦を続ける東北大学で学んだことに、この東北大学コミュニティの一員であることに、大いなる矜持をもってこれからの人生を送ってほしいと思います。

MOVE AND SHAKE.

東北大学は、国際卓越研究大学を目指すプランの中で、3つの公約、Impact、Talent、そしてChangeを掲げています。これらは「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」のDNAを基盤として、更に新たな知識経営体として飛躍することを公約しています。その第一歩を踏み出すにあたり、「MOVE AND SHAKE.」、「知の加速が、世を動かす。」をスローガンとしました。これからの大いなる変動の時代に、様々な環境で、様々な人生を歩まれる皆さんには、自ら動き、人の心を動かし震わせ、周りに影響を与える、真の「Movers and Shakers」として活躍することを期待しています。

東北大学コミュニティ

最後に、東北大学コミュニティについてお話しします。私が学生時代を送った頃、大学は象牙の塔であり、社会に閉じた学問の府でありました。それから約半世紀が過ぎ、大学は知的公共財として社会に開かれた場となっています。特に東北大学は東日本大震災を経験し、社会と共に歩む必要性を教職員一同強く自覚しました。東北大学コミュニティは、東北大学の学生、教職員、全国あるいは世界145ヶ国に及ぶ同窓生、共創する企業、自治体、行政、更には東北大学を応援して頂ける、あるいは関心をもっていただけるすべての皆様から構成されます。そして、そのプラットフォームとして全学同窓会「萩友会」があります。本日ご参加のすべての皆様には、「萩友会」の一員として卒業?修了後も是非東北大学の国際卓越研究大学への挑戦を見守り、ご支援いただき、また東北大学を様々に活用して頂ければ幸いです。

ここで、日本語を母国語としない卒業生、修了生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。

I would like to take this opportunity to address our international graduates and congratulate you on your success.

As you know, Tohoku University was recently selected as Japan's first and only University for International 虎扑电竞 Excellence. This prestigious designation comes with significant government support for up to 25 years, assisting our journey of discovery as a world-class research university. We believe this recognition stems from our global vision and determination to meet society's expectations as a leader for innovation.

You are stepping into a world that is rapidly changing. I encourage you to welcome this new era rather than fear it, and to become drivers for positive change yourselves, just as our members did for years.

Tohoku University is an institution known for shaking up norms, valuing new ideas, and always moving toward international excellence. Our new motto "MOVE and SHAKE" comes from the fact that Tohoku University is, and continues to be, a place for movers and shakers. I hope you will remember this with pride long after your graduation. And in this era of profound transformation, as you navigate various professional journeys across different settings, I believe each of you will excel as true movers and shakers in your fields.

Today's graduation is not the end of your relationships with university friends and colleagues. It is the start of a new chapter where we will work together as equals. You are all important members of the Tohoku University family. Our alumni network 'Shuyukai' connects Tohoku University graduates worldwide, allowing you to maintain connections and support each other when needed. Remember, this university will always be your home, and we will always welcome your contributions.

Congratulations on your graduation. I wish you all the best for your future. Stay safe, and I look forward to seeing you again soon.

最後に

皆さんが、これから世界に向けて大きく羽ばたかれることを心から期待して、私の式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。

2025年3月25日


東北大学総長

冨永悌二

これまでのメッセージ


大野英男第22代総長メッセージ

里見進第21代総長メッセージ

このページの先頭へ