2025年 | プレスリリース?研究成果
患者に優しい服薬モニタリングを可能に ― 高感度量子スピンセンサの医療応用と次世代技術への展開 ―
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 教授 安藤康夫
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 服薬アドヒアランス(注1)向上のために注目される「デジタルメディスン」(注2)の信号を、非接触?遠隔で検出することに世界で初めて成功しました。
- 従来必要だったパッチ型機器の貼り付けが不要となり、患者の負担を大幅に軽減できる服薬モニタリング技術を実現しました。
- 本技術は医療応用のみならず小型電子機器の省エネ化への応用も期待されます。
【概要】
処方通りに薬を服用すること(服薬アドヒアランス)は、治療効果を引き出すうえで不可欠であり、残薬削減による医療費の節約にもつながります。その有効な手段として注目されているのが「デジタルメディスン」を活用した服薬モニタリングです。集積回路(IC)が内包されたこの錠剤を服用するとICが胃酸などと反応して小さな電気信号を発し、その信号を利用して服薬の有無が記録されます。従来は、この信号を受け取るためのパッチ型機器を皮膚に貼り付ける必要があり、皮膚トラブルといった患者の負担が課題でした。
東北大学大学院工学研究科の窪田崇秀特任准教授、安藤康夫教授らの研究グループは、「デジタルメディスン」中のICが発生させる微弱な磁場に着目し、それを高感度な量子スピンセンサ(注3)で生体内を模した生理食塩水中において、非接触?遠隔で検出することに成功しました。実験では胃の中心から体表に相当する約10 cmの距離から信号を捉えることができました。本成果は、患者負担を大幅に減らし、服薬モニタリングの精度向上と普及を加速させるものです。
本成果は米国東部夏時間10月29日にThe 70th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials(共催:米国物理協会出版、米国電気電子学会磁気部会)の招待講演として発表されました。
図1. 服薬アドヒアランスの重要性
【用語解説】
注1. 服薬アドヒアランス:医療における"アドヒアランス"とは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること(参考情報:公益財団法人日本薬学会webページ)、と定義される。服薬アドヒアランスは、患者が治療方針に沿って処方薬を服用することを指す。服薬アドヒアランスの低下は様々な原因で起こり得るが、低下したことを医療者や介助者が的確に把握することにより、より良い医療の提供が可能となると考えられている。
注2. デジタルメディスン(Digital Medicine):一般に、デジタル技術を活用した医療?健康管理のアプローチ、ソリューション全般の総称です。本文書で示す「デジタルメディスン」は、大塚製薬株式会社により開発された内服薬と服薬確認用の"飲み込むセンサ"を組み合わせた医療ソリューション。薬剤に組み込んだ極小の"インジェスタブルセンサ(経口摂取可能なセンサ)"が、服用時に体内で自己発電により起動し、電気信号を発生させる。患者が皮膚上にパッチ(ウェアラブル)を装着することにより、電気信号が検知される。その情報はスマートフォンのアプリを介してクラウドに送信され、患者自身に加えて医療者が服薬状況を確認できる。また服薬日時だけではなく、パッチに内蔵されたセンサにより体角度や活動量などを記録することも可能。
【論文情報】
タイトル:Magnetic Field Detection from an Ingestible Device using a Tunnel Magnetoresistance Sensor
著者:*Takahide Kubota, Hiroshi Wagatsuma, Kosuke Fujiwara, Motoki Endo, Takayuki Hojo, Makoto Ishida, Nobukazu Nakasato, Hiroki Ono, Hayato Fukushima, Seiji Kumagai, Hitoshi Matsuzaki, Kazuma Yokoi, Suguru Oyagi, Rei Otsuka, Ikuro Yamane, Dollyrey Canlas, Jaleh Komaili, Sumukh Pathare, Jonathan Withrington, Todd Thompson, Junichi Jinno, Koji Onishi, and Yasuo Ando
*講演者:東北大学大学院工学研究科 特任准教授(研究) 窪田 崇秀
会議名:The 70th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Material
講演番号:DG-01
URL:https://2025.magnetism.org/
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
先端スピントロニクス医療応用工学共同研究講座
教授 安藤 康夫
TEL:022-752-2168
Email: yasuo.ando.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
特任准教授(研究) 窪田 崇秀
TEL:022-752-2168
Email: takahide.kubota*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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