2025年 | プレスリリース?研究成果
腸内細菌由来のフェニル硫酸による血糖値調節メカニズムを解明-インスリン分泌とインスリン抵抗性への影響-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科 病態液性制御学分野 教授 阿部高明
研究者ウェブサイト
【発表のポイント】
- 腸内細菌由来の尿毒症毒素「フェニル硫酸(PS)」(注1)がインスリン分泌を促進し、同時にインスリン抵抗性を引き起こすことを発見しました。
- 糖尿病マウスモデルを用いたPS投与と糖代謝の関係および慢性腎臓病 (CKD) (注2)、糖尿病関連腎臓病 (DKD) (注3)患者の臨床検体を用いた解析で、PSが糖代謝調節異常に影響を与え、糖尿病や腎疾患の進行に関与する可能性を発見しました。
- 血糖コントロールの新たな指標としてPSが有用であること、また、PSを標的とした治療戦略が今後の新たな治療法となる可能性を示す成果です。
【概要】
腸内細菌が産生する尿毒素であるフェニル硫酸(PS)は、糖代謝に影響を及ぼし、糖尿病や腎疾患の進行に深く関与すると考えられていますが、その詳細は明らかになっていません。
東北大学大学院医学系研究科の阿部高明教授らの研究チームはPS が膵臓β細胞 (注4)におけるインスリン分泌を促進する一方で、脂肪細胞 (注5)においてインスリン抵抗性を引き起こすことを明らかにしました。
研究チームは、マウスモデルおよび研究対象者のデータを用いてPSと糖代謝の関連を検討しました。その結果、PSが糖尿病患者のヘモグロビンA1c (HbA1c) (注6)と負の相関を示す一方で、インスリン抵抗性とは正の相関を示すことを確認しました。これによりPSが糖代謝異常に影響を及ぼし、それが糖尿病や腎疾患の進行に関与する可能性が示されました。また腎機能が悪化すると糖尿病のコントロールが良くなるメカニズムの一端を解明しました。これらの知見は、PSを標的とした慢性腎臓病(CKD)や糖尿病関連腎臓病(DKD)の新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。
本研究成果は2025年2月17日付で科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

【用語解説】
注1.フェニル硫酸(PS): フェニル硫酸は私たちが食事から摂取したタンパク質の一種であるチロシンが腸内細菌によってフェノールに変化し、その後体内で生成される物質です。この物質は糖尿病患者の血液中で増加し、腎臓の細胞内にあるエネルギー生産器官(ミトコンドリア)の働きを低下させます。その結果、本来血液中にとどまるべきアルブミンというタンパク質が尿中に漏れ出てしまいます。また腎臓の病状がどのように進行するかを予測する指標としても使われています。
注2.慢性腎臓病 (CKD): 慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)は腎機能が低下し老廃物や余分な水分を適切に排泄できない状態が長期にわたって続く病気です。浮腫、高血圧などの症状が現れ、重症化した場合には透析療法が必要となることがあり主な原因として糖尿病や高血圧などが挙げられます。
注3.糖尿病関連腎臓病(DKD): 糖尿病関連腎臓病 (DKD: Diabetic Kidney Disease)は糖尿病合併症の一つで、長期間の高血糖により腎臓が少しずつ損傷を受けて進行性の腎機能低下を引き起こす病気です。 尿中のタンパク質の一種であるアルブミンが増加し、浮腫や高血圧、腎機能低下などの症状を示します。 血液透析が必要となる病気の中で最も多い原因疾患であるため、早期発見?早期治療が重要です。
注4.膵臓β細胞: この細胞は膵臓の中にある「ランゲルハンス島」と呼ばれる組織に存在し、インスリンというホルモンを作り出して分泌する細胞です。血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が上がるとインスリンを分泌して血糖値を下げ体内の血糖値を適切な範囲に保つ重要な役割を担っています。
注5.脂肪細胞: 脂肪細胞は体のエネルギー源として脂肪を蓄える細胞です。必要に応じて蓄えた脂肪を分解しエネルギーを供給しますが、過剰に脂肪が蓄積すると肥満や血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなる状態などの問題を引き起こすことがあります。
注6.ヘモグロビンA1c (HbA1c): 過去およそ1~2か月の平均的な血糖値を反映する指標です。血液中のヘモグロビンがどの程度ブドウ糖と結合しているかを示し、糖尿病の診断や治療効果の確認に広く用いられています。
【論文情報】
タイトル:Hypoglycemia and hyperinsulinemia induced by phenolic uremic toxins in CKD and DKD patients
著者: Yoshiyasu Tongu, Tomoko Kasahara, Yasutoshi Akiyama, Takehiro Suzuki, Hsin-Jung Ho, Yotaro Matsumoto, Ryota Kujirai, Koichi Kikuchi, Koji Nata, Makoto Kanzaki, Kenshin Suzuki, Shun Watanabe, Chiharu Kawabe, Yui Miyata, Shun Itai, Takafumi Toyohara, Chitose Suzuki, Tetsuhiro Tanaka, Jun Wada, Yoshihisa Tomioka & Takaaki Abe*
*責任著者:東北大学大学院医工学研究科?大学院医学系研究科 教授 阿部高明
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-87501-x
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医工学研究科?大学院医学系研究科
教授 阿部高明
TEL: 022-717-7200
Email: takaaki.abe.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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