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Discover Tohoku University ?東北大学ってこんな大学?

こんにちは、東北大学学生広報スタッフの堀川です。

私は生命科学研究科に所属しており、普段は鳥の研究をしています。基本的に青葉山にある研究室で研究生活を送っている私ですが、今回は星陵キャンパスにある医工学研究科の医工学実験棟で実施されている「トランスグレード実習講座」の模様を紹介します。

トランスグレード実習講座とは?

英語で「トランス」は横断、「グレード」は学年を意味する言葉を掛け合わせた「トランスグレード実習」とは、学年を超えた幅広い年代(中高生から社会人まで)の方々が一緒に実習を行う講座です。年齢や職業といった社会的属性が異なる人々が枠を超えて互いに学び、時に教え合うことで、異なる着眼点や気づきを得られるのがこの講座の特長です。医工学研究科では、10年ほど前からこの講座を実施しており、現在では年に4種?計6回の講座が開講されています。

この日行われていたのは「遺伝子多型解析」の体験型実習です。医工学研究科医療機器創生医工学講座の沼山恵子准教授が講師となり2日間にわたって実習が行われ、高校生や社会人など約20人が参加していました。

実習のテーマは「自分がお酒に強いのかどうか」。自分の細胞からDNAを抽出し、PCRと塩基配列決定を行って、ALDH2(アルコール代謝を行う酵素の一つ)の遺伝子型を解析することで、自身がお酒に強いか弱いかを遺伝子から読み取れるそうです。遺伝子の観点から自分の体質を明らかにする、こんなことなかなか体験できないですよね。

まずは自分のDNAを抽出

実習はマイクロピペッターの操作練習から始まりました。参加者自身が自分のDNAを抽出し、そのDNAの一部をPCRという手法を用いて数百倍~数千倍に増やしていきます。そして、増えたDNAを使ってゲル電気泳動による遺伝子型(お酒に強いのか否かを決める)の判定を行ったそうです。余った細胞から抽出したDNAでペンダントを作ってお土産にしたとか。面白そう...。

実験で使うのはマイクロチューブ(ふたが付いている小さな試験管)にマイクロピペッター(右上にある棒状の機器)、チューブ立て(黄色や緑、青色のもの)などなど...色々ありますね。

準備が整ったらいざ実験

PCRにより得られた自分の遺伝子と同じ配列のDNA断片を「DNAシークエンサー」という塩基配列決定を行う装置を用いて解析します。つまり、自分のDNAでは4つの塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)がどのような順番で配列しているのかを見ていきます。この配列のパターンによってお酒に強い人、弱い人が分かります!

DNAシークエンサー

DNAシークエンサーの中の様子

マイクロピペッターを使って一つずつ作業をこなしていきます

DNAシークエンサーの中の構造について詳しい説明がありました

いよいよ実験の結果発表!

全員の塩基配列の読み取りが完了して、ALDH2遺伝子多型の結果発表です!
実験の結果、NN型が74%、ND型が26%、DD型が0%*という結果になりました。

*ALDH2活性型(アルコールの分解途中で生じる有毒物質であるアルデヒドを無害な酢酸に変える)がN、ALDH2不活性型(アルデヒドを正常に無毒化できない)がDを示しています。つまりNN型は最もアルデヒドを分解しやすく、DD型はアルデヒドを分解しにくいということになります。

*NはALDH2活性型(アルコールの分解途中で生じる有毒物質であるアルデヒドを無害な酢酸に変える)を、
DはALDH2不活性型(アルデヒドを正常に無毒化できない)を示します。
つまりNN型は最もアルデヒドを分解しやすく、DD型はアルデヒドを分解しにくいということになります。

つまり今回の参加者の7割の方はお酒を正常に分解できる酵素を持つということになりますね

塩基配列の結果をまとめていきます

丸1日参加者の方々と一緒に実習を見学させていただきましたが、みなさんとても楽しそうでした。参加者からは「丁寧な説明と資料のおかげで実習で難しいと感じることはなく、予想以上に面白かった」といった声や「世代の違う人たちとお話しすることができ、いい刺激になった」といった感想が聞かれました。

今回の実習の講師、沼山先生にも色々聞いてみました!

ートランスグレード実習を始めたきっかけは何でしょうか

医工学研究科では、もともとサイエンス?リーダーズ?キャンプ(SLC)という高校?中学理科教員向けの研修を行っており、そのときに教師の方から「生徒たちと一緒に実習を行ったら面白そう」という言葉がきっかけでした。様々な年代同士で実験を行うことで得られる経験があること、座学のみではなく、実習を行うことで忘れにくく、疑問が生まれるきっかけが生じることに期待をもっています。

ーテーマは毎回どのように決めているのでしょうか

学校や職場では体験ができなさそうなもの、やったことがなさそうなものをテーマとして選んでいます。経験が無いことでグループで協働することができ、知らない内容だからこそ話を深めることができると考えています。

ー実習を通して期待していることや目標はありますか

この実習では大人たちは自分が仕事で行っていること、子どもたちには自分が勉強している内容や将来やりたい事を話せる場所にしたいと考えています。
まず、大人の方々には「現在の高校生はこんなことまで学んでいるのか...」と焦らせたいですね。それが勉強しようという意欲につながることを期待しています。
子どもたちには大学院生の様子を知ってほしいです。特に理系進学に迷っている女子生徒には活躍している女子大学院生の姿を近くで見ることで理工系へ進む意義について考えるきっかけになり、研究者を身近なものだと感じてほしいと考えています。

ー今後の予定としてはどのようなことを目指していますか

まずは、トランスグレード実習の回数を重ねていきたいと思っています。
STEAM教育(Science, Technology, Engineering, Mathematicsを統合的に学習するSTEM教育にArtsを加えたもので、拡散思考が加わり創造的な発想が可能になるという考えに基づいた教育手法)のように分野横断的に行うことに加え、年齢?世代の軸に沿って縦方向にも広げた教育を実践したいです。実習でいただいたアンケート結果を参考にして試行錯誤していきたいですね。

最後に

テーマも進め方も考え方も非常に魅力的な実習を見学させていただくことができました!取材にあたって協力していただいた沼山先生、TAのみなさん、広報室の方々には大変お世話になりました。ありがとうございました。

"科学の原理について体験を通して学ぶ" という実習は楽しいだけではなく、理解が深まることをより実感しました。今回はトランスグレード実習講座を詳細に紹介させていただきましたが、興味がわいた方はぜひ参加してみてください。とても良い経験が得られると思います!

【用語説明】

  • DNA
    細胞の遺伝情報を保存し、次の世代へ伝達する働きをもっています。DNAは、リン酸、糖、そして4種類の塩基という物質から構成されており、4つの塩基にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)があります。
  • PCR
    特定のDNA配列を迅速に増幅させる技術です。患者のウイルスゲノムや犯罪現場の血液中におけるDNAの検出など身近なところで使われています。
  • 塩基配列決定
    DNAの塩基(A,G,C,T)がどのような順番で並んでいるのかを決定することです。
  • 遺伝子多型とは
    塩基配列が、同じ種が属する集団の個体(個人)間で変化していることを指します。このような塩基配列の変化の一部が眼の色や髪色といった人の見た目や運動能力、お酒の強さなどの個人差をうみます。

文?写真:学生広報スタッフ(取材当時)堀川 みなる
協力:大学院医工学研究科総務係

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総務企画部広報室
Email: koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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