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アセチルコリン受容体活性化の鍵を発見 ~次世代薬剤設計の可能性を拡げるGPCRメカニズム解明の新たな一歩~

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 心拍数調節に関わるムスカリン性アセチルコリン受容体(M2R)(注1における404番目のアスパラギン残基(Asn404)の赤外信号(注2)を特定
  • M2R活性化における膜貫通ヘリックス6(TM6)(注3の構造変化を引き起こす水素結合ネットワークを実証
  • Gタンパク質共役型受容体 (GPCR)(注4全体における活性化メカニズムの解明に向けた新たな視点を提供し、神経変性疾患や認知症、心臓病などの創薬研究への寄与に期待

【概要】

名古屋工業大学 大学院工学研究科工学専攻生命?応用化学系プログラムの杉浦勇也氏(研究当時)、生命?応用化学類の片山耕大准教授、神取秀樹特別教授、柴田哲男教授、住井裕司准教授、関西医科大学医学部医化学講座の清水(小林)拓也教授、寿野良二准教授、東北大学大学院薬学研究科の井上飛鳥教授、生田達也助教、京都大学大学院医学研究科の岩田想教授らのグループは、振動分光法(注5を用いて、心拍数の調節に関与するムスカリン性アセチルコリン受容体(M2R)が内因性アゴニスト(注6であるアセチルコリンによって活性化される仕組みを解明しました。

本研究では、M2Rのリガンド(注7結合部位を構成するアミノ酸の1つであるアスパラギン残基(Asn404)とアセチルコリンの間の精密な相互作用が、M2Rの活性化に極めて重要であることを突き止めました。また、N404Q変異体が部分的に活性型様の構造変化を示すことを明らかにし、この相互作用を支える水分子が、柔軟かつ精密な水素結合ネットワークを形成し、膜貫通ヘリックス6(TM6)の構造変化を引き起こすことを発見しました。

さらに、アセチルコリン分子の特定部位を化学修飾してこの水素結合ネットワークを破壊すると、M2Rを正常に活性化できないことを確認しました。これらの結果から、Asn404はアセチルコリンの結合を感知し、M2Rの活性化を誘導する鍵となる重要な残基であることが示されました。

この研究成果は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性化メカニズムの全貌解明に向けた新たな道を拓くだけでなく、次世代の薬剤設計における革新的な指針となる可能性があります。

研究の詳細は、2025年3月14日付で「Journal of the American Chemical Society」誌に掲載されました。

図1 ムスカリン受容体にアセチルコリンが結合する過程の赤外分光法による観測イメージ

【用語解説】

(注1)ムスカリン性アセチルコリン受容体(M2R)
Gタンパク質共役受容体の一つで、パーキンソン病やアルツハイマー病に関わる神経伝達物質、アセチルコリンを天然リガンドとして受容する膜タンパク質。5種類のサブタイプ(M1RからM5R)が存在しており、今回研究対象としたM2Rは、主に心臓に分布し、心臓機能を抑制的に調節している。

(注2)赤外信号
分子が赤外光を吸収または透過する際に観測されるスペクトル情報を指す。具体的には、分子内の特定の化学結合が赤外光の特定の波数(振動数)のエネルギーを吸収することで生じるピーク(吸収バンド)として表れる。

(注3)膜貫通ヘリックス6(TM6)
膜タンパク質(特にGタンパク質共役受容体)において、細胞膜を貫通するαヘリックス構造のうちの6番目のヘリックスを指す。

(注4) Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
細胞膜を7回貫通する膜タンパク質で、細胞外のシグナル(ホルモン、神経伝達物質、光、匂いなど)を細胞内に伝達する受容体。生体内のシグナル伝達において中心的な役割を担い、多くの医薬品の標的となっている。

(注5)振動分光法
分子の振動 (結合の伸縮や変角運動など) に関連するエネルギーを測定することで、物質の構造や化学環境を分析する手法。分子が特定の振動モードを持つと、それに対応する特定の波長の光を吸収する。

(注6)内因性アゴニスト
生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す薬。生体内で自然に生成され、特定の受容体を活性化する物質。

(注7)リガンド
特定の受容体やタンパク質に結合し、生体内でのシグナル伝達や生化学的反応を引き起こす分子のこと。

【論文情報】

タイトル:Discovering key activation hotspots in the M2 muscarinic receptor
著者: Yuya Sugiura, Tatsuya Ikuta, Yuji Sumii, Hirokazu Tsujimoto, Kohei Suzuki, Ryoji Suno, Putri Nur Arina Binti Mohd Ariff, So Iwata, Norio Shibata, Asuka Inoue, Takuya Kobayashi, Hideki Kandori, Kota Katayama
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.4c14385

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上飛鳥(いのうえ あすか)
TEL:022-795-6860
E-mail : iaska*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部 総務係
TEL:022-795-6801
E-mail : ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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