本文へ
ここから本文です

大量の情報を伝送する光ファイバー製造に必要な最適圧力を実験で確認 ─ 情報化社会でさらに高速?大容量を伝送できるファイバー開発に朗報 ─

【本学研究者情報】

〇大学院工学研究科 教授 小野円佳
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 光の透過性を高めるため、シリカガラス(注1の透明度向上に必要な圧力が予測値の約5分の1で済むことを、初めて実験で実証しました。
  • 圧縮によるシリカガラスの透明度向上の鍵が、中距離の秩序構造の消失であることを明らかにしました。
  • 工業的な大量生産化や光学材料?先端技術分野での応用が期待されます。

【概要】

人工知能(AI)の急速な普及とデジタル革命の進展により、情報爆発の時代を迎えています。この情報伝達の要となるのが光通信ファイバーであり、その主材料であるシリカガラスの透明度を高めることで、より多くの情報を効率的に伝送することが可能となります。これまで、溶融状態のシリカガラスを0.2万気圧で圧縮し、急冷により固めると透明性が向上することは知られていました。しかし、それ以上の圧力をかけた場合にガラスがどのような構造になるのか、また透明性がどのように変化するのかを実験的に明らかにした例はこれまでありませんでした。計算による予測では、圧力を4万気圧まで上げることで、ガラスの構造が変化し、透明度が最も高くなるものの、それ以上の圧力では透明度が逆に低下すると予測されていました。

東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の小野円佳教授らの研究グループは、実験的に約1万気圧までの圧力範囲でガラスを作成し、ガラスの構造や透明度を調べました。すると、計算で予測されていた構造の変化が0.8万気圧程度で生じ、透明度も最高になることが観測されました。本研究成果により、シリカガラスの透明度向上に必要な圧力が計算による予測値の約5分の1で済むことが実証されました。これは、光学材料や先端技術分野での新たな応用を切り拓くものです。

本成果は、2月21日付で科学誌NPG Asia Materialsに掲載されました。

図1. (a) ラマン散乱スペクトル(挿入図)のD2と呼ばれるピークの強度を印加圧力(横軸)に対してプロットしたもの。D1、D2はシリカガラスネットワーク構造中の不安定な小さいリング構造である4員環、3員環の数密度をそれぞれ表し、これらのリング構造はガラス構造が不安定になると増加することが知られている。黒点が室温での測定結果。□は未処理のガラス、〇は超高圧HIPで作製したガラス、▲は固体のマルチアンビルセル(注7を使って圧力を印加して作製したガラスのデータ。色付き点はそれぞれの測定温度に対応する。圧力が1 GPa(≈1万気圧)付近で3員環の数が極小値となり、数密度の温度変化も最も小さく、熱的な安定性も極大になっていることが示唆される。(b)レイリー散乱係数の印加圧力(横軸)依存性を示したもの。白色は以前0.2万気圧まで求めたデータで、今回新たに超高圧HIP装置を用いて作製したガラスのデータは200から1000 MPaの範囲に示された黒色の四角である。1万気圧以下に極小値があることが分かる。

【用語解説】

注1. シリカガラス:普通のガラスには、さまざまな成分が混じっているのに対し、ほぼ二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)だけでできているガラス。結晶構造を持たず、SiO4の正四面体を単位として不規則に結合している。高透光性、耐熱性、耐薬品性が高いなどの特徴がある。さらに、複屈折がなく、結晶石英よりも低い屈折率を有する。不純物が極めて少ない高純度のシリカガラスは、半導体製造装置や光ファイバー、光学実験などに利用される。

注7. マルチアンビルセル:複数のアンビル(くさび状の部材)を組み合わせて試料に超高圧を加えることのできる実験装置。

【論文情報】

タイトル:Direct Observation of the Topological Pruning in Silica Glass Network; the Key for Realizing Extreme Transparency
著者: Madoka Ono*, Yasuhito Tanabe, Masaya Fujioka, Hiroki Yamada, Koji Ohara, Shinji Kohara, Masanori Fujinami and Junji Nishii
*責任著者:東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻 教授 小野円佳
掲載誌:NPG Asia Materials
DOI:10.1038/s41427-025-00589-5

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 教授 小野円佳
TEL: 022-795-7952 
Email: madoka.ono.d7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科 情報広報室 担当 沼澤みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs04 sdgs09 sdgs17

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ