本文へ
ここから本文です

太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!? ~25億年前の地球と光合成生物の進化の解明~

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科地学専攻 教授 掛川武
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 地球の表層で酸素が増加した起点となったシアノバクテリアの光アンテナ注1)の進化に迫る研究。
  • 太古代注2)の水中の光環境が光合成生物の放出した酸素により緑に変わることを明らかにした。
  • 緑の光を集光する光合成生物であるシアノバクテリアは水中の緑の光環境で繁栄し、その後の葉緑体の起源となった。

【概要】

名古屋大学大学院理学研究科の松尾 太郎 准教授、三輪 久美子 特任助教らの研究グループは、京都大学、東北大学、東京科学大学、龍谷大学との共同研究で、地球と光合成生物のやり取り(共進化)を通して見えてきた、シアノバクテリアの光アンテナの初期進化とそれを牽引した「緑の海仮説」を提唱しました。

シアノバクテリアは地球における生命の多様化と地球表層の酸化の起点となった重要な光合成生物であるものの、シアノバクテリアがクロロフィル注3)の吸収する青や赤と相補的な緑の光を利用して繁栄してきた理由は分かっていませんでした。緑の光を光合成に利用するには、緑の光を吸収し、その光エネルギーをクロロフィルに渡す仕組みを獲得するとともに、その仕組みが優位に働く環境が必要であったはずだからです。

ここで本研究グループは、シアノバクテリアが誕生した太古代における水中の光環境に着目しました。太古代の貧酸素の水に溶け込んでいる二価の鉄注4)が光合成によって発生した酸素によって酸化され、紫外線から青の光を吸収した結果、水中は緑の光であふれていたことが分かりました。生物実験および分子系統樹解析注5)によって、シアノバクテリアが太古の緑の光環境で繁栄した可能性が明らかになりました。

光合成生物の活動によって生まれた緑の海は、紫外線を効率的に遮へいすることで生命を育む現場になったと同時に、遠くの惑星の生命の存在の指標にもなるかもしれません。

本研究成果は、2025年2月18日(日本時間)付科学雑誌『Nature Ecology & Evolution』に掲載されました。

図1. 地球大気に含まれる酸素濃度の遷移

【用語解説】

注1)光アンテナ:
太陽光を効率よく捕らえるための色素とタンパク質が結合した複合体。吸収した光エネルギーは、光合成の反応中心に渡され、光合成反応を促進するために利用される。

注2)太古代:
約40億年前(地球誕生から5億年後)から25億年前までにあたる地質時代。

注3)クロロフィル:
シアノバクテリア、緑藻や陸上植物などの酸素を発生する光合成生物において光の吸収や化学反応において広く使われている緑色の色素。

注4)二価の鉄:
正の電荷2つ分だけ帯びた状態の鉄。酸素が少ない土や水中に存在し、液体の水に溶けやすい性質がある。二価の鉄は酸素と結びつくと、三価の鉄に変わり、この状態になると水に溶けにくくなる。。

注5)分子系統樹解析:
DNAやタンパク質の配列を比較し、生物同士の進化的な関係性を示す「家系図」を作成する方法。これにより、シアノバクテリアがどのように進化してきたのか、そのつながりを明らかにすることができる。

【論文情報】

雑誌名: Nature Ecology & Evolution
論文タイトル:Archaean green-light environments drove the evolution of cyanobacteria's light-harvesting system
著者:松尾太郎(名古屋大学)、三輪久美子(名古屋大学)、星野洋輔(名古屋大学)、藤井悠里(京都大学)、菅野里美(名古屋大学)、藤本和宏(名古屋大学)、辻梨緒(名古屋大学)、武田真之介(京都大学)、大波千恵子(京都大学)、新井千紘(名古屋大学)、吉山洋子(龍谷大学)、三野義尚(名古屋大学)、加藤祐樹(名古屋大学)、柳井毅(名古屋大学)、藤田祐一(名古屋大学)、増田真二(東京科学大学)、掛川武(東北大学)、宮下英明(京都大学)
DOI:https://www.nature.com/articles/s41559-025-02637-3

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科
教授 掛川武
TEL:022-795-6600
FAX:022-795-6600
E-mail: kakegawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科?理学部 
広報?アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ